Column 110
2021/12/05 18:00
放送作家の鈴木おさむさんの小説「僕の種がない」を読みました。本の帯には「ドキュメンタリーディレクターの◯◯◯◯は癌で余命半年の芸人に意を決して提案する『ここからなんとか子供を作りませんか?』だが、その芸人は無精子症だった、、、、。それでも諦めずに奇跡を起こそうとする物語」とあります。
著者が鈴木おさむさんで、このタイトルなので、読者を笑いに誘う物語かと思って読み進めましたが、ドキュメンタリーかと思ってしまうほどリアルなタッチで、感動的な物語でした。とくに、産婦人科医として、不妊治療をおこなっている医師として、いま一度、感動を与えてくれる作品でした。
不妊症といえば女性の病気と思われることも多いのですが、実は不妊症の原因は男性因子が30%以上もあるのです1)。「僕の種がない」という物語は、無精子症という「病気」がひとつのテーマですが、不妊症のカップルにとって、最初に精液検査を受けておくことは大変重要なことなのです。
世界保健機構(WHO)が2010年に発表した精液所見の基準値2)は、精子の数(濃度)が1500万/ml以上、精子の動き(運動率)が40%以上、精子の形(正常形態率)が4%以上、とされています。精子の数が少なかったり、動きが悪いときには、コラム75や76でお話しした人工授精の適応となります。
一回の射精で何千万もの精子が排出され、毎日毎日一億匹近くも作られている精子ですが、精子の検査所見が非常に悪い場合には、人工授精よりも顕微受精の適応になります。顕微受精は、卵子の中に顕微鏡下で精子を一匹注入する生殖補助医療技術(ART:Assisted Reproductive Technique)です。
ARTは「芸術」のARTと同じ綴りですが、男性不妊で悩むカップルにとっては、芸術に匹敵するくらい素晴らしい「わざ」が開発されています。
引用
1)https://www.jaog.or.jp/lecture/5-不妊の原因と検査/
2) https://www.fertstert.org/article/S0015-0282(12)01883-3/fulltext
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