Column 197
2023/02/07 18:00
1492年コロンブスが新大陸であるアメリカに到達したことは、歴史上の一大偉業でしたが、生態学的にも非常に大きな出来事でした1)。旧大陸であるヨーロッパとの間に航路が拓かれたことにより、新大陸のタバコやジャガイモ、トウモロコシ、旧大陸の小麦やコーヒー、ヒツジなど数多くの動植物が、それまで生息しなかった地域に広がったのです。
これらの動植物の移動は「コロンブス交換」と呼ばれています。ただし、「交換」されたのは、有用な作物や家畜だけではありません。旧大陸から持ち込まれた痘瘡は免疫をもたない新大陸の人々に多くの死者を出しました。そして、新大陸から旧大陸に持ち帰られた「負のお土産」の一つが梅毒といわれています。
コロンブスが帰還した1493年、スペインのバルセロナに突如として出現した梅毒は、瞬く間にヨーロッパ全土に広がりました。イタリアでは「スペイン病」、フランスでは「イタリア病」、ドイツやイギリスでは「フランス病」、ポーランドでは「ドイツ病」、ロシアでは「ポーランド病」といった別名があり、感染ルートが漠然と読みとれます。
ヨーロッパ全土に広がった梅毒は、東南アジアを経て1512年には日本に伝来します。コロンブス交換からわずか20年です。そうして16世紀中には世界中で流行する一大伝染病になりました。梅毒は性的な接触が主な感染ルートですから、世界中の人々がいかに仲良く交わっていたか偲ばれます。
それまで知られていた疫病とは違い、死にいたるまで数年〜数十年と進行が遅いため、当初は甘く見られがちで、性感染症であることから美男美女の証として自慢する人もいたようです。しかし、顔が変形したり精神疾患を起こすことから18世紀には恥ずべき恐ろしい病気だという認識が広まりました。
長い年月にわたって患者の体内に潜伏し、性交渉という「濃厚接触」のチャンスを狙って確実に新たな宿主に感染を広げる、梅毒はしたたかなヤツです。2022年9月時点でわが国の感染者数は8700例を超え、最も多かった2021年の感染者数をすでに上回っています。梅毒は決して古い過去の病気ではありません。人間に依存した生存戦略で長いこと生き残ってきた病原体ですから要注意です。
コラム163「梅毒が増えています」もご覧ください。
引用
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