Column 212
2023/05/23 18:00
コロナ禍で「手洗い」の重要性が再確認されています。手洗いの重要性を発見したのはハンガリー出身の産婦人科医師ゼンメルワイスでしたが、19世紀には手洗いの重要性は認められていませんでした1)。
当時は細菌やウイルスが感染症を引き起こす原因だとは認知されていませんでした。ゼンメルワイスがオーストリアの総合病院で産婦人科医をしていた頃は、1〜3割の妊産婦はお産の後に細菌感染による産褥熱で亡くなっていました。感染症は予防することが不可能な病気だと考えられていました。
ゼンメルワイスは、産褥熱による死亡率が、医師が分娩を行う第1病棟では約13%であるのに対して、助産師が分娩を行う第2病棟では約2%と大きな差があることに気がつきました。そして、第1病棟の医師たちが死体の病理解剖を行った後に産科で検診していたことを突き止めたのです。
19世紀中頃、医師は診察前に手洗いをする習慣はありませんでした。死体から何らかの原因物質が妊産婦に運ばれているのではないかと考えたゼンメルワイスは、第1病棟の医師に次亜塩素酸溶液での手洗いを義務付けました。すると、第1病棟での産褥熱での死亡率が劇的に低下したのです。
私が医学部の学生のときの話です。外科の開業医である父親のあとを継ぐ友人がいました。その父親が「そろそろ息子にも手洗いを教えんといかんなぁ。」と言ったのを聞いて、「手を洗う」ことをわざわざ教えるとは何だろうかと不思議に思ったことがありました。
医学部で最初にその「手洗い実習」があるのは、手術のある外科を回るときです。手術前の「手洗い」は外出から帰宅した時の「手洗い」とはレベルが違います。まず、手洗い前の爪切りとヤスリが第一歩です。ヤスリで爪の先端を丸くしておかないと、ゴム手袋が容易に破れてしまうからです。
次にブラシによる手洗い開始です。最近はブラシによるクレンジングは1回で、その後に消毒液で手指を消毒する方法に変わっていますが、以前はブラシによるクレンジングは2回で、1回目は肘の上まで、2回目は肘までをブラッシングしていました。
ブラッシングが終わると汚い滴が指先に垂れてこないように、指先を上に肘を下にして手のひらに何も接触しないようにしてタオルで拭き取ります。タオルは指先にかけて反対側の手で摘み、手を反転しながら肘の方へ下ろしていきます。
医療における手洗いは患者への感染を極力防ぐのが目的です。私たちの日常生活でも感染から自分を守るために手洗いの習慣を身に付けましょう。
引用
1)http://www.tamakyo.com/areainfo/2003/
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