Column 175
2022/09/06 18:00
先日、アメリカの食品医薬品局(FDA)がアルツハイマー病の新しい治療薬「アデュカヌマブ」を条件付きで承認したことが話題となりました1)。この新薬は、脳の中にたまったアミロイドβという異常なタンパク質を取り除く役割があるそうです。
このアミロイドβは健康な人でも脳の中で毎日作られていますが、「脳の中の水」によって日々洗い流されているということが、最新の研究で明らかになりつつあります。脳は硬い頭蓋骨の中で脳脊髄液という液体に浸かっているのですが、脳の中ではどのように流れているかは永年の謎でした。
私たちの体の中では、老廃物を含んだ細胞の間質液はリンパ管に吸収されて運ばれます。リンパ管は全身にくまなく分布していて、日々の活動によって生じたゴミを洗い流してくれます。ところが、脳ではこのリンパ管が見つかっていませんでした。脳がどうやって老廃物を洗い流しているのかは長年の謎でした。
2012年、アメリカのロチェスター大学の研究グループが、脳脊髄液は脳表面から脳の中へと続く血管の周囲(血管周囲腔)に沿って脳の中に入っていくこと、それが間質液として脳の中へ浸み込んでいき、リンパ管がなくても老廃物を排出することが可能であることを明らかにしました。
実際に、実験動物の脳に注射したアミロイドβが脳脊髄液の流れに依存して排泄されることが、放射性物質でラベルした水の流れで示されました。この脳内の水の流れにはアクアポリン4という脳の中で水の通り道を作っているタンパク質が重要な役割を果たしていることも分かりました。
また、この研究グループは脳の中の水の流れが睡眠中に活発になることも明らかにしています。睡眠を取らせないようにしたマウスでは脳の中の水の流れは遅く、睡眠中や麻酔で眠らせたマウスでは水の流れが速く、脳内の老廃物が速やかに排泄されることが分かりました。
ぐっすりと眠った後のすっきりとした目覚めは脳の中の水がサラサラと流れたからでしょうか。
引用
1)https://www.m3.com/clinical/news/1030238
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