Column 168
2022/07/19 18:00
東京都日野市にある須田動物病院の須田沖夫さんによると、『1980年頃の犬の平均寿命は5歳前後でしたが、その10年後には10歳前後となり、1998年(平成10年)には14歳に達しました。それは、犬の心臓に住みつく寄生虫「フィラリア」を駆除できるようになったのが、主たる理由です』1)。
2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞した北里大学特別栄誉教授 大村 智博士は、1979年(昭和54年)に寄生虫に効果のある「エバーメクチン」を発見したことが受賞理由となりました2)。大村博士が静岡県の土壌から発見した放線菌により産生されるエバーメクチンの誘導体イベルメクチンが、犬のフィラリア病予防・治療に絶大な効果を示したのです。
イベルメクチンを販売しているメリアルジャパン社によれば、1987年に日本でイベルメクチンが発売されてから、獣医師により馬や牛、豚などの家畜用に使われるようになりました。そして1993年にイベルメクチンは犬用のフィラリア予防・治療薬「カルドメック・チュアブル」として発売されました。犬のフィラリア病予防には100%の効果があると言うことです3)。昨年16歳で亡くなった我が家の愛犬リョーマ(コラム107)もこの恩恵にあずかっていました。
こうして、イベルメクチンは動物薬の世界的なベストセラーになったわけですが、さらに大村博士はアフリカや中南米などで蔓延していたオンコセルカ症やリンパ系フィラリア症に効くイベルメクチンの開発を進めます。オンコセルカ症は失明に至る河川盲目症ともいわれ回旋糸状虫という寄生虫によって、またリンパ系フィラリア症は象皮病とも呼ばれるフィラリアによる感染症です。
イベルメクチンのヒト用製剤メクチザンは、WHOを通じてオンコセルカ症とリンパ系フィラリア症の撲滅プログラムに、北里研究所とメルク社から無償供与されています。すでに中南米ではオンコセルカ症は撲滅されており、アフリカではオンコセルカ症は2025年に、リンパ系フィラリア症は2020年に撲滅を達成できるといわれています2)。
ノーベル生理学・医学賞のメダルの裏面には、膝の上に本を広げつつ、病気の少女のために岩から流れる水を汲んでいる医者の姿がデザインされているそうです4)。
引用
1)産経抄 2022.5.2
2)https://www.kitasato-u.ac.jp/nobelprize/research_result.html
3)https://www.j-cast.com/2015/10/07247275.html?p=all
4)https://ja.wikipedia.org/wiki/ノーベル生理学・医学賞
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