Column 246
2024/01/16 18:00
妊娠中、多くの女性が吐き気などを経験するつわりの原因として、妊娠によって黄体ホルモンが増加することで吐き気を生じさせることなどが考えられてきました。このつわりに特定のホルモンの増加が関係することを、米国や英国などの国際研究チームが明らかにし、その論文が英科学誌ネイチャーに掲載されました1)。
つわりは妊娠初期に多く、70%の女性が経験するとされます。軽くて済む女性もいる一方で、飲食ができずに体重減少や脱水などで入院しなければならないほど重症化する人も中にはいます。こうしたつわりや、重症化した妊娠悪阻(おそ)の原因については近年、GDF15というホルモンとの関連が指摘されています。
GDF15は、ストレスに起因して発現し、特定の細胞に働きかけるタンパク質(ストレス応答性サイトカイン)の一種です2)。低酸素、酸化ストレス、炎症、組織障害などのストレスシグナルにより、免疫細胞のマクロファージ、心筋細胞、血管平滑筋細胞、内皮細胞、脂肪組織から分泌されます。心房細動や心不全、急性冠症候群との関連が報告されていることから、循環器領域のバイオマーカーとして活用が期待されており多くの臨床研究が行われています。
そのGDF15は通常時から人の体内に存在し、がんや加齢、喫煙などのストレスによって上昇することがわかっています。妊娠するとGDF15は胎盤でつくられ、妊娠中に大きく増加します。研究チームが妊婦の遺伝子や血中成分を解析したところ、妊娠中に吐き気や嘔吐を経験した人は、そうでない人に比べて、GDF15の値が高く、このGDF15の大部分は胎児に由来していたそうです。
また、妊娠前のGDF15の値が低い女性はつわりが重症化するリスクが高かった一方で、遺伝性血液疾患によりGDF15が慢性的に高い女性は、つわりをほとんど経験していなかったことが分かりました。
昔から、つわりは赤ちゃんが元気な証拠とか、つわりが治ってきたら安定期に入ったとか言われていますが、赤ちゃんがシグナルを出していたのですね。今回の成果は、つわりの治療につながる可能性もあるといわれています。
引用
1)https://www.asahi.com/articles/ASRDM3RLDRDLULBH011.html
2)https://www.roche-diagnostics.jp/media/releases/2021-8-23
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