Column 191
2022/12/27 18:00
クマは冬に入る前、大量に食べて体重を増やし、そのあと数ヶ月間は横になったまま動かないというパターンを毎年繰り返していますが、なぜか糖尿病にはなりません。その理由の一端が、米ワシントン州立大学のBlair Perry氏らによって解明され、iScienceに論文が掲載されました1)。
世界中で増加している糖尿病(2型糖尿病)は、血糖を細胞に取り込む際に必要なホルモンである「インスリン」を適切に使用できなくなって発病します。その結果、血液中の血糖が増加して高血糖になり、全身の臓器に障害を起こします。
この糖尿病の発症前には、細胞のインスリンに対する感受性が低下したインスリン抵抗性と呼ばれる状態があります。体重の増加と運動不足はともに、インスリン抵抗性を高めて糖尿病のリスクを高めてしまう大きな要因です。
過食して冬眠に入り動かないクマのような生活をしている人がいたとすれば、その人の医学的な予後は非常に悪いものとなります。これまでの研究では、冬眠中のクマはインスリン抵抗性が高くなっていることが分かっていましたが、血糖値とインスリン値は安定しており、糖尿病へと進行することはありません。そして、春になり冬眠から目覚める頃には、クマのインスリン感受性は冬眠前の正常なレベルに回復しています。
Perry氏らは、クマの血液と脂肪細胞を活動期と冬眠期に分けて採取しました。また、冬眠中には10日間ブドウ糖を与えた2日後にも検体を採取しました。
活動期の血液を冬眠中の脂肪細胞に添加したところ、インスリン分泌に関する遺伝子が活性化され、インスリン抵抗性が改善されることが分かりました。この変化に関連している8種類のタンパク質も特定されました。
これら8種類のタンパク質が、クマの体内でどのような役割を果たしているかを解明することで、ヒトの糖尿病の予防や治療のための新薬につながる可能性があると、Perry氏は述べています。また、クマは冬眠中も筋肉や骨量が減らないことから、糖尿病以外の疾患にもクマの研究が役立つ可能性があります。
クマになりたいと思っている、わが国の糖尿病患者とその予備軍の数は、約1000万人だそうです2)。
引用
1)https://www.carenet.com/news/general/hdn/55241
2)https://dm-net.co.jp/calendar/chousa/population.php
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