Column 275
2024/08/06 18:00
「空蝉」は「うつせみ」と読みます。読んで字のごとく「蝉の抜け殻」を表しています。しかし、単に蝉の抜け殻を示す言葉だけではなく、「この世に生きている人間」を示す言葉でもあります。
蝉の抜け殻の様子から、古来より虚しい(むなしい)さま、儚い(はかない)さま、の例えとして使われてきました。形はあれども、中が空っぽであることから、虚しく、儚く、感じとられてきたのでしょう。
仏教の思想では、人間の生はとても儚く虚しいものだと捉えられてきました。儚い定めの生き物に、先人が世の無常を重ねたからでしょう。古語の「現人(うつおしみ)」が変化した「うつせみ」という言葉に、抜け殻となって空洞である「空蝉」の文字が当てられたのです1)。
夏の明け方、にぎやかな蝉の合唱が響き始めます。コラム264「221年ぶりにセミ大発生」とコラム77「17年ゼミ」に素数ゼミのお話を書きました。プログラムされた17年周期と13年周期で地上に出てきて、子孫を残すために木から木へと飛んでは相手を探すために鳴き続けるのです。
多くのセミたちがその使命を果たして落ちる地上には、自分達が成長した時の多くの抜け殻がまだたくさん残っています。わずか7日間の命を生み出した成長の証として「空蝉」たちも自分の中身とともに土にかえっていくのです。
現在、NHKの大河ドラマ「光る君へ」が放映されています。主人公は源氏物語の作者である紫式部です。源氏物語は、今から1000年前の平安時代中期に書かれた世界最古の長編小説です。物語は54帖から成り、波瀾万丈な光源氏70余年の生涯が見事に描かれています。
その第3帖に登場するのが「空蝉」という架空の女性です。光源氏が空蝉の寝所に忍び込もうとしますが、空蝉は上着のみを残してするりと逃げてしまいます。その様が蝉の抜け殻のようであったことが「空蝉」の由来です。
地球の年齢46億年からすれば、人生の歴史も空蝉ですね。
引用・参考文献
1)https://dime.jp/genre/1153870/#google_vignette
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