Column 222
2023/08/01 18:00
日本映画界の巨匠、黒澤明監督の第30作目となる本作は、芥川賞を受賞した福岡出身の村田喜代子氏の「鍋の中」を原作に、黒澤明監督自身が脚本化した作品(1991年松竹)で、長崎の人里離れた山村を舞台に、原爆体験をもつ祖母と4人の孫たちとの一夏の物語を描いた奇妙な優しさに包まれた映画です1)。
長崎から少し離れた片田舎に暮らす80歳の祖母の家に、夏休みを過ごすために中学生から大学生までの4人の孫が都会からやって来ました。孫たちは田舎生活を退屈に感じながらも、長崎の街に残された戦争の傷跡や祖母が話す昔話を聞くうちに、戦争に対する考えを深めていきます。
やがて、ハワイから祖母の甥がやって来ます。戦争を知らずとも、原爆の恐ろしさを忘れてはいけない、孫たちは祖母の昔話に心を動かされます。アメリカ人の親戚は誰よりも祖母の原爆体験に寄り添い、心の交流が辛い記憶を浄化していく、戦争を恨んでも、国や人を憎まない、黒澤明が描く平和への祈りです。甥の役にはリチャード・ギアが起用され話題を呼びました。
祖母はまだらになった記憶から昔話を語るうちに原爆で家族を失ったことを思い出し、雷鳴が光る夜に「ピカじゃ、ピカじゃ、あれに見られると命をとられる」と騒いで、子供たちに布団をかぶせようと半狂乱になります。長崎方面の山の上に大きな「ピカ」を象徴する「目」が昇り、ジッとこちらを睨んでいるのが不気味でした。
豪雨の中を吹き飛ばされそうになりながらも前に進む小柄なお祖母ちゃんにシューベルトの「野ばら」が流れるシーンが印象的です。世代や国籍を超えて、あらゆる人々の心を揺さぶらずにはいられない感動のドラマです。
私が1965年に卒業した長崎市立城山小学校は、爆心地からわずか500mの丘の上にあり甚大な被害に遭いましたが、頑丈だった鉄筋コンクリートの校舎は残り、1999年に「城山小学校平和祈念館」として開館し、長崎原爆遺跡の一つに指定されて海外からもたくさんの人が訪れています2)。
引用
1)https://ja.wikipedia.org/wiki/八月の狂詩曲
2)https://www.at-nagasaki.jp/spot/61039
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