【骨盤底筋ケア編#1】骨盤底筋群の仕組み・役割・エクササイズ
“骨盤底筋群”という筋肉について、これまでのコラムでも少しずつ触れてきました。骨盤底筋群とは、骨盤の底にある筋肉の総称で、ハンモック状に位置しています。小さな筋肉の集まりで、力を合わせて骨盤内の臓器を支えたり、排泄をコントロールする役割があります。大事な筋肉ですが弱くなりやすいものでもあり、特に妊娠・出産の際に大きくダメージを受けます。そこで今回は骨盤底筋群について詳しくお伝えしていきます。
【女性なら知っておきたい】骨盤底筋群の仕組み
骨盤底筋群は、尿道・膣・肛門の周囲にあり、骨盤の一番下でハンモック状にぶら下がっています。女性の骨盤の中には、膀胱・子宮・直腸の3つの臓器があり、それらの臓器をダイレクトに支えているのが骨盤底筋群です。浅層・中間層・深層の3層に分かれていることから、エクササイズの際には、“穴を閉じる(例えば、お尻の穴を閉じるなど)”イメージだけではなく、“引き上げる”イメージも大事になります。
【女性なら知っておきたい】骨盤底筋群の役割
支える
- 臓器を支える
骨盤底筋群は骨盤内にある膀胱・子宮・直腸を筋膜や靱帯とともに支えています。そのため、骨盤底筋群が弱くなると臓器が下垂したり、膣から脱出してしまうことがあります。そのような状態を、骨盤臓器下垂や骨盤臓器脱といい、泌尿器科や婦人科での治療の必要があります。
- 脊柱を支える
骨盤底筋群は、実は体幹を支えるインナーマッスルの一つでもあります。脊柱を支えたり骨盤を安定させる働きがあります。よって、体幹を鍛えたい場合には、腹筋や背筋のみならず、骨盤底筋群を鍛えることも必要です。骨盤底筋群は、腹横筋という腹筋の深層にある筋肉と連動して働くため、下腹部を引き締めスタイルアップに役立つ筋肉でもあります。
性機能
骨盤底筋群の表層の筋肉には球海綿体筋と坐骨海綿体筋という勃起筋があり、性機能の役割があります。骨盤底筋群を鍛えることで、性交中に膣をしめる働きが向上すると感度が上がり、オーガズムを得やすくなります。
排泄コントロール
尿道や肛門を囲むように付いていることから、骨盤底筋群には排泄をコントロールする役割があります。尿・ガス・便を我慢する時などに働き、漏れを防ぎます。よって、骨盤底筋群が弱くなると、尿漏れやガス漏れ、時には便漏れが起こることも。産後のお湯漏れ(入浴後に膣からお湯が漏れる)や膣から空気が出ることも、筋力低下が要因といえます。
これらの役割は、妊娠・出産・加齢などによって徐々に弱まってしまいます。自然分娩の場合、出産時には骨盤底筋群が約3倍に引き伸ばされることから、出産回数が多いと将来的な尿漏れのリスクも増加します。また、更年期以降の機能低下には女性ホルモンの分泌量が低下することも関わっています。
骨盤底筋群の大切さに気づいた今から、エクササイズを始めてみましょう!
【女性なら知っておきたい】骨盤底筋群を働かせるには
姿勢をよくする
エクササイズの継続が難しい方は、まずこの方法から実践してみましょう。骨盤底筋群は、体幹を支えるインナーマッスルです。姿勢を真っ直ぐにしておくだけでも働いています。そこで、座っている時と立っている時に筋肉に効かせるコツをお伝えします。
- 座っている時
ハンドタオルを幅3~4cm程に細長く畳みます。それを椅子の前1/3のところに置いて、その上に坐骨*を乗せて座ります。次に、坐骨とつむじで縦方向に引っ張り合うように意識すると真っ直ぐの姿勢がキープでき、骨盤底筋群が自動的に働きます。さらに負荷を加えたい場合は内腿が働くよう、膝の間に空のペットボトルを挟むのがおすすめです。TVを見る時、食事をする時などに取り入れてみてください。
*坐骨の探し方:椅子に座り、お尻をフリフリと横に揺らした時に座面にあたる骨が坐骨です。
- 立っている時
膝の間に空のペットボトルを挟みます(もしくは股の頂点にテニスボールを挟みます)。その状態のまま、足の裏(親指のつけ根、小指のつけ根、踵のつけ根)でしっかりと床を踏みしめるように意識し、つむじは天井方向へ伸びるように意識します。これをキープできれば、自動的に骨盤底筋群が働きやすくなります。炊事の時、歯磨きの時、電車を待つ時など、日常生活の中でチャレンジしてみてください。
骨盤底筋エクササイズ
- 場所を意識する
ハンドタオルをロール状にして椅子の座面に縦に置きます。そのタオルの上に、尿道から肛門までが当たるようにして座ります。タオルが当たっているところが骨盤底筋群です。まずは、日常的にタオルを当てて座り、感覚刺激を入れるようにしてみましょう。そうすると「ここを収縮すればよいのか!」という意識が芽生え、骨盤底筋群のトレーニングを行う準備が整います。
- 収縮の練習
座面のタオルを“つむじ”に向かって引き上げるイメージで骨盤底筋群を収縮する練習をしてみましょう。「膣やお尻の穴でタオルを吸い上げる」「おしっこを我慢する」「お尻の穴を閉じて引き上げる」ような意識をすると感覚が掴みやすいです。
- チェックする
筋肉を収縮するイメージが掴めたら、実際に収縮できているかを確認してみましょう。お尻の割れ目の一番上にある“尾骨”を触ってみてください。もし、上手に収縮できていたら、尾骨が内側に動くのが感じられると思います。触っている手から尾骨が離れる感覚です。その際にお尻や内もも、お腹に力が入りすぎていたら、もう少し優しく骨盤底筋群を引き上げるイメージで練習してみてください。
- 動作と結びつける
骨盤底筋群の働かせ方を習得できたら、日常生活の中に取り入れましょう。掃除機をかける時、炊事をする時、重いものを持つ時など、あらゆる日常動作の中で意識してみてください。日頃の生活が、骨盤底筋群を鍛えるエクササイズの時間になります。
今回は、女性にとって大切な骨盤底筋群の仕組み・役割・エクササイズについてお伝えしました。後半で紹介したエクササイズは、いつでもどこでも誰にも気づかれずに実践できるので、ぜひ取り入れてみてください。少し背筋を伸ばすだけ、意識を向けるだけでも必ずからだは応えてくれます。続けることで、効果を実感していただけたらと願っています。
1.吉住浩平.関節病態運動学–骨盤複合体の病態運動学と理学療法.理学療法.2008;25:1447-1457.
2.Kathe Wallance.産後リハにおける腰部・骨盤へのアプローチ.丸善出版;2017.
3.Kari Bo,Bary Berghmans,Siv Morkved.et al.エビデンスに基づく骨盤底の理学療法-科学と臨床をつなぐ-原著第2版.医歯薬出版;2017.
4.Richard L.Drake,A.Wayne Vogl,Adam W.M.Mitchell,et al.グレイ解剖学アトラス原著第2版.エルゼビアジャパン株式会社;2015.
この記事を書いた人
漆川 沙弥香
LUTIS代表|理学療法士・医療科学修士
福岡市中央区の女性専門サロンLUTISの代表。理学療法士として20年以上のキャリアを持ち、国内の学術機関や海外の専門家から”女性の健康”に関する高等教育を受ける。サロンでは、「月経痛・PMS」「産後の腰痛・尿もれ」「更年期の尿もれ」など女性のライフステージに合わせた症状に対して施術やエクササイズを通したアプローチを行っている。大学院(医療科学修士課程)を修了し、現在も研究を続けるかたわら大学の講師や自社主催の専門家向け講座を実施している。
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