Column 66
2020/11/15 18:00
作家の嵐山光三郎さんは55歳の時に松尾芭蕉の「奥の細道」のルートを自転車で走破して、「下り坂の極意」を体験したことが「下り坂」繁盛記1)に書いてあります。そこから引用します。
登り坂は苦しいだけで、周囲が見えず、余裕が生まれない。どうにか坂を登りきると、つぎは下り坂になる。風が顔にあたり、樹々や草や土の香りふんわりと飛んできて気持ちがいい。ペダルをこがないから気分爽快だ。そのとき、「楽しみは下り坂にあり」と気がついた。
しばらく走ると小さな坂に出る。坂を下ったスピードを殺さず、一気に登っていく。登りつつ『つぎは下り坂だ』とはげましている自分に気づいた。下り坂を楽しむために登るのである。人は、年をとると「まだまだこれからだ」とか「第二の人生」とか「若い者には負けない」という気になりがちだ。(略)下り坂を否定するのではなく、下り坂をそのまま受け入れて享受していけばいいのだ。
一生懸命にがんばって働いてきた日本人にとっての働き方は登り坂の連続でしたね。最近は「働き方改革」とか「有給休暇の消化」とか無理矢理に中途半端な「休み」をとるように「指導」されていますが、これでは登り坂の次に来る下り坂の爽快感は味わえませんね。登り坂のご褒美に下り坂を楽しみましょう。ただし、人生には、「まさか」という第三の坂もあることをお忘れなく。
■引用・参考文献
1)嵐山光三郎 「下り坂」繁盛記 ちくま書房
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