Column 319
2025/06/10 18:00
世界で初めて、ロボットの遠隔操作による顕微授精(ICSI)で赤ちゃんが誕生したことを、グアダラハラ大学(メキシコ)のGerardo Mendizabal-Ruiz氏らの研究チームが報告しました。ICSIは体外受精(IVF)の一種で、卵子の細胞内に1匹の精子を直接注入して受精させるものです。
通常のICSIでは、医師あるいは技師(胚培養士)が、顕微鏡下の操作で1匹の精子を卵子に直接注入します。受精が成功して受精卵が得られれば、母体の子宮内に移植されます。このプロセスには緻密な23のステップが含まれており、医師や技師の技量により結果に差が出てくる可能性が大きいのです。
研究チームは、これらのステップをAI制御または遠隔オペレーターによるデジタル制御のもとで実行する自動化されたワークステーションを作りました。彼らは「AI制御のシステムは自律的に精子を選び、精子の尾部中央をレーザーで固定して動きを止め、卵子に注入する。この精密なプロセスは、人間の能力を超える精度で実行される」と説明しています。
今回の研究では、自動化されたICSIシステムによって精子が注入された5個の卵子のうち4個(80%)が受精に至り、妊娠が成立しました。なお、自動化システムによる受精に要した時間は卵子1個当たり平均約10分であり、通常の手作業によるICSIと比べてわずかに長かったということです。
赤ちゃんは男の子で、メキシコのグアダラハラ在住の40歳の女性から生まれました。この女性は、以前通常のIVFを試みましたが得られた成熟卵は一つだけであり、胚の形成には至りませんでした。そこで、ドナーからの卵子提供を受け、今回のICSIシステムにより得られた最も質の高い胚を女性に移植したところ、妊娠し出産したのです。自動化されたプロセスは、グアダラハラから約3,700km離れたニューヨークにいる遠隔オペレーターが監視したということです。
地球からの遠隔制御によって宇宙ステーションでAI制御の顕微授精が行われる未来が現実味を帯びてきました。
引用・参考文献
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