Column 12
2018/12/05 19:00
私が医師になった40年くらい前のことです。毎月、月経前に万引きをして警察署にお世話になる患者さんがいました。普通の主婦で別に生活に困っているわけでもないのに、です。実はこの患者さんは、以前、お話しした月経前症候群(PMS)だったのです。毎月、エストロゲンが下がるたびに万引きの衝動を抑えることができなくなっていたのです。
女性の月経周期は月の満ち欠けの周期とほぼ同じで、平均28日型です。そもそも人体の3分の2は水分ですので、潮の満ち引きのように、人の体も月の引力の影響を受けていても不思議ではありません。排卵前に一度下がった女性ホルモンのエストロゲンは、排卵後に再び上昇して、その波が下がると月経が起きます。
引き潮のようにエストロゲンの波が引くときがPMSの症状が出るときです。イライラや気分の落ち込み、流涙など、症状は様々ですが、人を殴りたい、人にくってかかるなどの暴力的な衝動も起こります。まさに、エストロゲンの波に揺れる小舟のように、女性は毎月を乗り切っているわけです。
月にまつわるロマンティックな話は多いのですが、西洋では古くから月が人を狂わすと信じられてきた歴史があります。ピンク・フロイドの「狂気」というアルバムの原題は、“The Dark Side of the Moon”(月の裏側の闇)です。月の満ち欠けやエストロゲンの波にも、宇宙のパワーがひそんでいるようです。
©️ Nozaki Women's Clinic Allrights Reserved.
Designed by HARUNO design.