Column 312
2025/04/22 18:00
2025年2月17日「黄金の腕を持つ男」と称された男性が88歳で息を引き取りました。オーストラリアで半世紀以上にわたり、2週間ごとに計1173回の献血を続け、240万人の赤ん坊を救うことに貢献したジェームズ・ハリソンさんの訃報でした1)。
ハリソンさんは14歳の時に病気で片方の肺を切除する手術を受けました。その際、約7リットルの輸血を受け、自分の命を救うためにどれだけの人が献血をしたのかを考え、会ったこともない人のために行動する人がいることを知った、と後に話していたそうです。ハリソンさんが献血を始めたきっかけは恩返しだったのです。
献血の年齢下限である18歳となった1954年から献血を始め、年齢上限である81歳になるまで、2週間ごとに1173回の献血を続けました。それから約10年たった1960年代、抗Dヒト免疫グロブリン製剤の製造が始まりました。
人間の血漿から作られる抗Dヒト免疫グロブリン製剤は、Rh式血液型不適合妊娠の治療薬です。赤血球の血液型にはABO式やRh式などがありますが、Rh式血液型にはD,E,Cなどいくつかの因子があって、このうちDの因子を持つ場合をRhプラス、持たない場合をRhマイナスといいます。
日本人でRhマイナスの人の割合は200人に1人くらいで、欧米人に比べると非常に少ないです2)。Rhマイナスのお母さんがRhプラスの胎児を妊娠することを「Rh式血液型不適合妊娠」と言います。この場合、胎児の赤血球がお母さんの血液に入ると、お母さんの体は、自分を守るためにRhプラスの赤血球を攻撃するたん白質の「抗D抗体」を作る免疫反応を起こします。
Rh式血液型不適合妊娠を経験したにも関わらず何も対処せず、第二子以降でRhプラスの胎児を妊娠した時に問題が発生します。胎児の赤血球がお母さんの持つ抗D抗体によって壊され、貧血や出生後の重篤な黄疸等の症状を引き起こす可能性があります。そのため、Rh式血液型不適合妊娠を経験したお母さんには、妊娠中や出産後に抗Dヒト免疫グロブリン製剤を注射するようになったのです。
ハリソンさんの血液の中には抗D抗体が高濃度で含まれていました。肺の手術時に大量に輸血したことが原因だそうです。240万人の赤ん坊は、ハリソンさんの献血による血漿から作られた抗D人免疫グロブリン製剤で救われたのです。
半世紀以上にわたり2週間ごとに計1173回の献血を続けたハリソンさんの黄金の腕はポパイのようにたくましかったに違いありません。
引用・参考文献
1)https://www.sankei.com/article/20250306-GKTHKUXQ2BDL3KQFTQE65THWXY/
2)https://www.jbpo.or.jp/rh/
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