Column 311
2025/04/15 18:00
男性が避妊をする場合、現在のところコンドームに頼るか、パイプカット(精管結紮)をするしか方法がありません。男性のホルモン成分を検出する方法をもとにした避妊薬の臨床試験がいくつか進行中ですが、承認には至っていません。そこで、ホルモン以外の点に着目した、男性用避妊薬の開発が始まりました。
そのカギとなるのは、リン酸化酵素(キナーゼ)の一種であるSTK33(セリン/スレオニンキナーゼ33)遺伝子です。雄マウスの精巣にある遺伝子からSTK33を除くと、尾が動かない異常な精子が形成され、不妊となることが示されています。
また、パキスタンの一家系の調査で不妊男性に同様の遺伝子変異が見つかっており、ヒトにおいてもSTK33遺伝子は男性の生殖に必要不可欠なようです。
STK33遺伝子が損なわれたマウスもヒトも、精子に異常があることを除いて他は正常で、精巣の大きさにも異常はありませんでした。そこで、STK33遺伝子に標的を絞った避妊薬の開発に着手したのが、米国ベイラー医科大学のAngela Ku氏らです。
彼女らは、数十億もの化合物ライブラリーからSTK33遺伝子に結合する低分子化合物を探し出して、CDD-2807という名称のSTK33遺伝子阻害薬を作成しました。
CDD-2807を雄マウスの腹腔内に21日間注射したところ、精子の数や運動性が低下して不妊になりました。さらに、その効果は永続的ではなく、投与を止めると21日以内に生殖能力が復活したのです。また、毒性の所見も認められませんでした。
この化合物が実用化されるには、生殖機能全般や子孫への影響、長期使用での安全性、ヒトでの臨床試験などまだまだ多くの検討が必要ですが、新たな男性避妊薬の一候補になり得るかもしれません。
コンドームが歴史博物館に陳列される日がくるかも知れませんね。
引用・参考文献
1)https://www.eurekalert.org/news-releases/1045187?language=japanese
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